月に一度、発表される米国の雇用統計の日は為替がかなり動きますね。それだけ影響力の大きい指標だと思うのですが、その中で注目されるのは非農業部門雇用者数だけではありません。雇用統計の事業所調査では、雇用者数に加えて、労働時間や賃金のデータも公表されます。
雇用者数に週平均労働時間を掛け合わせたものを「総労働投入時間」と呼びます。この数字は延べ時間数でみて、どれだけの労働力が投入されたかを示しています。特にサービス業の動向をみるうえで貴重な情報源となります。
時間当たり賃金は民間の全雇用者の賃金を単純に平均したものです。このため、例えば低賃金労働者の割合が上昇(または低下)した場合には、実際の賃金水準に変化がなかったとしても時間当たり賃金は見掛け上は低下(上昇)することも起こりえます。そういう性質があることから、賃金インフレの指標としては解釈に注意が必要です。
それ以上に雇用統計の賃金が重要なのは、個人所得の動向を把握する手掛かりとなる点です。総労働投入時間に時間当たり賃金を掛け合わせると、雇用者に支払われた賃金の総量(労働所得)を計算できるからです。
雇用統計から計算した労働所得の前年同月比の伸び率は、2011年に入り一貫して4%台で底堅く推移しました。これは名目個人消費が前年比で4%程度の伸びを維持してきたこととも整合的です。米国経済は堅調な所得の伸びを背景に、個人消費への依存度をますます強めており、個人消費が名目国内総生産(GDP)に占める割合は11年には71%と過去最高を更新しています。
ただし、最近では雇用統計から計算した労働所得の前年同月比伸び率が、2月の5.0%から5月の3.5%まで鈍化してきています。米国が個人消費主導の景気拡大を続けることができるかどうかを見る上で、労働所得の動向がこれまで以上に注目されます。
(参考:日経新聞)